更新日  2025年5月2日   公開日  2023年10月17日

AI創薬は、米国を筆頭に日本でも広がりを見せる注目の薬の開発手法です。ベンチャー企業・大手製薬会社とも規模を問わず、AI(人工知能)技術を用いた創薬への投資や研究へと参入しており、市場規模が拡大しつつあります。

AI創薬が注目される背景には、成功率の低下やコストの高騰という創薬の課題がありますが、AIは高いデータ処理力で大量の既知情報から新たな見解を導き出すことで、創薬のプロセスを劇的に効率化できる可能性を秘めています。とくに基礎研究フェーズのAI活用はこれからで、標的候補とその仮説生成には大きなブレークスルーのチャンスが広がっています。

創薬への新しいアプローチとして、FRONTEOは、新規性の高い標的候補とその仮説を提供するAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory」を立ち上げました。AIとバイオロジストの融合で、成功確度の高い標的候補とその仮説を導き出します。

▼ Drug Discovery AI Factory
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Drug Discovery AI Factory 紹介ムービー


AI創薬とは - 製薬企業の導入の動きが加速

AI創薬とは、AI(人工知能)技術で創薬の開発・研究プロセスを推進し、画期的な新薬の創出や創薬の効率化を目指すアプローチです。

AIの長所である大量のデータ処理力を活かすことで、膨大な研究情報や分子データを効率的に解析でき、有望な新薬候補の発見や創薬プロセスのスピードアップが見込めます。

研究・開発のプロセスを大幅に効率化できれば、開発期間の短縮やコスト削減につながり、新たな治療法や薬剤の発見、難病の治療への貢献が期待できます。そのため、製薬企業が創薬にAIを導入する動きが進んでいるのです。

創薬への応用が期待されるAI技術

創薬分野へのAI技術の応用は、世界中で積極的に取り組まれている注目度の高いテーマです。この背景の一つはディープラーニングの発展で、新薬の標的探索や臨床試験などでAIが活用される場面も増えています。2024年のノーベル化学賞は、AI技術でタンパク質の構造予測を行うGoogle DeepMindのAlphaFoldが受賞しましたが、これも創薬へのAI活用の一例でしょう。

創薬の課題と、AI創薬が期待される理由・背景

創薬、すなわち医薬品の開発には長い期間と大きなコストがかかる上、上市への成功率が下がってきていることも大きな課題です。そんな中、大量のデータ処理が長所であるAIは、医薬品開発においても臨床試験への導入や候補化合物の最適化でも活用が進むなど、既に開発期間のスピードアップに貢献しつつあります。

創薬の課題と現状

人類にとって不可欠な医療の発展ですが、中でも創薬には長い時間と多大なコストを要し、成功率も低いなど困難な課題を多く抱えています。
しかし近年、AIの急速な発展でこの状況の改善が進んできました。AI創薬の潮流としては、ディープラーニングを用いた創薬ターゲットの予測、生成モデルによる新規化合物の設計、そして、大規模な臨床データの解析による安全性予測などが挙げられます。

AI創薬を取り巻く海外や国内の潮流

海外ではとくに米国や欧州において、製薬企業によるAIスタートアップ・AIベンチャー企業との提携や買収が活発化しており、AIを活用した創薬プロセスの効率化や新薬開発への積極的な投資も見られます。AI創薬をテーマとした展示会やイベントも開催されるなど、業界全体で機運の高まりが見られます。

関連:米国で開催された「AI Driven Drug Discovery Summit 2024」に、FRONTEOも出展・講演

国内においても、日本政府がAI創薬を重点施策として位置付けており、産学官連携による取り組みが加速しています。日本でもAIを活用・開発するAIスタートアップ・AIベンチャー企業と製薬企業との連携を進める動きが活発化しているほか、化合物の設計や標的タンパク質の同定、臨床試験の最適化などの領域で活用が進んでいます。

AIが創薬において担う役割と経済効果

AIは、創薬における数々の課題を解決して大きなインパクトを与える可能性を秘めています。

AIを活用することで創薬の各段階を効率化でき、新薬開発までの期間を大幅に短縮することが期待されています。たとえば、AIによる予測モデルの活用で薬物の候補を効率的に絞り込み、プロジェクトの成功率を高めることができます。また、患者個人の遺伝子情報(ゲノムデータ)や臨床データを蓄積し、データを統合的に活用することのメリットも期待されています。

マッキンゼーなどの試算では*、創薬を含む製薬・医療機器領域でのAI活用によるコスト削減は世界全体で年600億~1100億ドル(約9兆~16兆円)とされており、大きな経済効果があることが伺えます。

(*出典:「生成AIがもたらす潜在的な経済効果」
https://www.mckinsey.com/jp/~/media/mckinsey/locations/asia/japan/our%20insights/the_economic_potential_of_generative_ai_the_next_productivity_frontier_colormama_4k.pdf )

いまの創薬の主流は「First in Class」

創薬分野で成功するためには、「First in Class」の戦略が必須です。「First in Class」とは、従来にないアプローチ等で発見する新しい作用機序などの薬をいいます。

これまで多くの日本の製薬会社の医薬品開発はBest in Class(First in Classを先行品として踏襲し、より薬効や安全性を高める)でした。First in Classは画期的な着想のため開発の難易度は高くなりますが、承認・上市までたどりつけば類似の医薬品との競争もなく世界で確実な上市と売上が期待できます。薬価算定においても「画期性加算」の加算率は高く、新薬開発へのインセンティブとなっています。しかし、First in Classに必要な新しいアイデア、つまり、新規性の高い標的分子を提案するのは非常に難しいのが実態です。

この「First in Class」の創薬の成功率のアップには、創薬のスタート時点に世界中でいまだ研究されていないターゲット選定と、研究開発の道筋を決める仮説の生成が不可欠で、そこにこそAIの活用が期待されています。

創薬の前半フェーズでのAI活用が急務

厚生労働省の医薬品開発におけるAI活用に関する資料でも報告されているように*、創薬の始まりとなる基礎研究のフェーズでは、AI活用がまだ進んでいません。

(*出典:厚生労働省「医薬品開発におけるAIの活用について」https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000926770.pdf )

基礎研究フェーズのターゲット選定では、研究者が論文などを元に検討を重ねます。しかしこれは個人の知識頼みで、バイアスもかかるなどの課題があり、カギを握る疾患メカニズムの予測(ターゲット候補と疾患とのつながりの推定)には多大な労力を擁します。こうしたターゲット選定・疾患メカニズムの予測といった仮説を、研究者のために提供できるAI創薬支援企業を見つけることは、日本だけでなく世界を見渡しても非常に困難なのです。

製薬企業の創薬の成功を支援する - FRONTEO Drug Discovery AI Factory

創薬の始まりの、アイデアの着想や標的分子探索・選定の課題のためにFRONTEOが立ち上げたのが、AIで創薬を支援する「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」。創薬研究で新しいアイデアやそれを裏付ける仮説を生成し、持続的に供給するプラットフォームです。

創薬の起点となる「仮説」の新規性をもたらすFRONTEOのDDAIF

Drug Discovery AI Factory(DDAIF)と従来型の創薬手法の違いは、非連続的発見という新しいアプローチによって、“未報告”、つまり論文に記載されていない疾患と遺伝子の関連性を予測できるという点にあります。

この未報告の関連性から発見された新規性の高い標的分子候補に対して、AIと創薬に精通したFRONTEOのバイオロジストが、独自の解析手法で高確度の標的分子を抽出し、それらの裏付けとなる仮説を生成します。

AI「KIBIT」は未報告の関連性を見出せる独自アルゴリズム

DDAIFで用いるのは、FRONTEO自社開発の自然言語処理AI「KIBIT」です。最近話題の大規模言語モデルではディープラーニング、中でもTransformerが広く使われており、自然な文章となるように単語をつなげる連続的な言語処理が特徴です。

一方でFRONTEOの「KIBIT」は、未報告の関連性を見つけ出せる独自のアルゴリズムを持ち、既知の情報から未知の発見、つまり非連続的発見を導きます。このアルゴリズムには数多くの工夫が凝らされており、特許を取得済みです*。

*特許番号:特許第6346367号、第7386466号

新薬の開発を始めるための仮説を構成する要素

DDAIFにおける「仮説」は、標的分子そのものにとどまりません。創薬の仮説には、疾患との関連が予測される遺伝子・分子などの「標的分子」、そしてその作用機序である「疾患メカニズム」、患者群のゲノム情報や疾患・症状などの「患者情報」、候補薬剤の「安全性情報」、そして実験モデルから先のバリデーションの可否である「フィジビリティ」までの要素が全て含まれるとFRONTEOは考えます。

>仮説を構成する要素について詳しく→「FRONTEOの考える仮説」

AI×バイオロジスト

FRONTEOが医薬品開発という専門性の高い領域で情報を解析し、革新的なアウトプットを導き出せるのは、AI・創薬の双方に精通したバイオロジストが存在するからです。
長年、製薬企業や研究機関で創薬に従事してきたFRONTEO Drug Discovery AI Factoryの研究チームは製薬企業のニーズを深く理解し、AI「KIBIT」を使用した独自の解析手法を駆使して仮説を生成します。

>研究者チーム→「FRONTEOのバイオロジスト」

Springer Natureのジャーナル約600誌の掲載論文のフルテキストデータを解析

FRONTEOのAI創薬支援をさらに強化する要素として、Springer Nature社との提携があります。

FRONTEOは世界的な学術誌の発行元であるSpringer Nature社と2024年に提携し、同社の約600の科学誌のフルテキストデータ(全文データ)が当社AIの解析対象となりました。従来から解析対象としていたPubMedの約3千万報の論文のアブストラクト(要旨)に、さらに多領域かつフルテキストデータの論文が解析対象に加わったことで、領域を超えた多彩な知見に基づいた新規性の高い標的分子を見出せる可能性が、さらに広がりました。

>Springer Natureのフルテキストデータ解析を詳しく→「フルテキスト解析・アブストラクト解析の比較」

製薬企業とFRONTEOそれぞれの強みを活かす「共創プロジェクト」

FRONTEOは「共創プロジェクト」という関わり方で、製薬企業の新薬開発を強力に支援します。これは、AIで解析した標的の候補リストを提示するだけでなく、製薬企業とFRONTEOの研究チームがウェット検証済み標的の獲得まで一体となって研究を行うことで、両社の強みを一層活かして創薬を進めるプロジェクトです。

 →関連:FRONTEOとUBE、Drug Discovery AI Factoryを活用した ドラッグリポジショニングに関する共創プロジェクトを開始

FRONTEOがめざすAI創薬と今後の展開

創薬の始まりである仮説には、新規性と高い成功確度が重要となります。FRONTEOのDrug Discovery AI Factoryでは、自社開発のAI「KIBIT」が連続的発見と非連続的発見の新しいアプローチで導くヒントから、研究者の経験と知識で、単なる候補リストではない新規性と成功確度の見込める仮説に仕立て上げます。

FRONTEO Drug Discovery AI Factoryは、仮説生成に特化したプラットフォームとして、これからの創薬プロセスにAI「KIBIT」を組み込んで世界中の誰も研究していない標的分子の抽出を通して、創薬の分野でもさらなるAIの社会実装を進めていきます。

>「仮説生成AI」について詳しく→“仮説生成AI” が創薬研究を推進する- FRONTEO Drug Discovery AI Factory

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