宮本 実
ライフサイエンスAI事業本部
ライフサイエンスAI研究チーム 部長
博士(農学)
京都大学大学院卒業後、武田薬品工業株式会社に入社。新薬開発の初期から後期までの
前臨床安全性評価、特殊毒性(光毒性)評価、毒性機序解明、安全性バイオマーカー探索など幅広く従事
創薬の難しさがやりがいに
私は学生時代から研究という活動が大好きで、研究を仕事として行える職業を希望していました。そこで選んだのが製薬業界、創薬という分野。いざそこに身を置いてみると、創薬の面白さ、難しさにどんどん引き込まれ、特に難しさにやりがいを感じました。例えば細胞を使った実験では高い薬効を示し、これはよい薬になると思えたものが、動物に投与したら期待した効果が出ないということもよくあります。私の経験の中で一番衝撃的だったのは、ある薬がもう承認目前、あと数カ月で承認という段階まで進みながら、毒性が見つかり、開発中止になってしまったケースです。それまでにいくら時間とコストをかけていても、当然ながらダメなものはダメ。とても厳しい世界です。
薬の高価格化を解決したい
現在、医薬品における大きな問題の一つは「薬の高価格化」です。貧富の差で助かる人と助からない人がいるのはおかしい、この課題を解決したいという強い思いが私の中にあります。創薬には研究から試験、承認まで非常に長いプロセスがあります。前職では非臨床の安全性に関して、最初期から最後まで一通り関わることができたのですが、その延長線上では、この課題を解決するのは難しいという実感もありました。
そこで、違う環境で課題解決に挑戦してみようかという思いが湧き始めました。そんな時にFRONTEOの発信する「全ての人に等しく医療を提供する」というフレーズに触れる機会があり、とても共感しました。FRONTEOという会社を調べると、AIを使った、自由会話からの認知症診断支援など、とても興味深い取り組みをしている。前職の私のチームにAIに詳しい同僚がおり、創薬におけるAIの活用を一緒に研究したことがあったため、その可能性は認識していました。そうした面からも縁を感じ、FRONTEOへの入社を決意しました。
Drug Discovery AI FactoryにおけるAIの活用
薬の高価格化は、そもそも創薬の高難度化に要因があります。その理由の一つは標的遺伝子・分子の枯渇です。今や、残されているのは非常に難しい標的遺伝子・分子ばかりです。そのため、開発期間の長期化や開発費の高騰が進み、結果として薬の高価格化に繋がっています。そもそも創薬が成功するかどうかも、非常に難しい。このあたりをいかに効率化・高速化できるかには、AIの活用がカギとなります。
FRONTEOのAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory」は、創薬研究の大幅な効率化・加速化・成功確率向上を支援する取り組みです。現在、創薬におけるAI活用は非常に盛んになっています。ただ、多くのケースは特定の標的に対して作用する化合物や核酸をいかに最適化するかといった目的で使われているものです。一方、こうした活用は、標的が決まっていることが前提ですが、そもそも前述の通り標的の発見自体が困難を極めています。そこで当社では、創薬プロセスの上流である、標的探索や仮説生成に焦点を当てています。自然言語処理AIエンジン「KIBIT」を搭載した「KIBIT Cascade Eye」「KIBIT Amanogawa」などの自社開発ツールを、創薬に精通したスタッフが活用することで、従来の手法に比べ、非常に短期間のうちに、顧客のニーズに沿った適切な標的遺伝子・分子、仮説などの提案を可能としています。
4人の研究者が2週間で約90の標的分子を発見
実績の一例として、先日ある顧客企業に対し、約2週間という期間で約90の標的分子を提案しました。そのうちのおよそ20はPubMedでの論文掲載がなく、さらにそのうち5つは実際に細胞レベルで薬効が認められました。5つのまったく新規かつ薬効の認められる標的分子を従来手法で見つけようとしたら、一体どれだけの時間がかかるでしょうか。なお、これらの探索と仮設生成は、私も含め、たった4人の研究者によって行われました。
新規性の高い標的分子を見つけようと試みる時に、研究者が何をするかというと、やはり論文を読みます。仮に最新の論文を読んですぐに研究に着手するとしても、実際にはもう何人もの研究者が同じ目的でその論文を読んでおり、論理的に考察・検討すればするほど皆が同じ方向に進みがちです。そこでファーストインクラスを出すのは、本当に大変なことで、熾烈なスピード勝負となります。そんな消耗戦のようなことをいつまで続けられるでしょうか。
Drug Discovery AI Factory が日本の創薬を底上げする
そうした従来手法に対する新たなアプローチとして、当社のDrug Discovery AI Factoryがあります。端的に言えば、KIBIT Cascade Eyeが医療情報や論文を網羅的に解析し、標的のヒントを提示。そのヒントを基に、KIBIT Amanogawaで論文探索を行い、研究者が仮説を生成します。このDrug Discovery AI Factoryを、より多くの方に正しく伝えなければいけないと考えています。幸い、実績は上がり始めています。正しい認知が広まれば、よいスパイラルに入っていくでしょう。圧倒的なスピードで標的探索を完了し、創薬の高速化・効率化に貢献することにより、「全ての人に等しく医療を提供する」という理念を達成できると信じています。
あるお客様が当社のAIを見て、「研究者にセレンディピティを起こしてくれる」と評したことがありました。私自身も一研究者としてKIBITが提示するヒントを目にすると、同じ感覚を覚えます。私の中に蓄積されたこれまでの知識・経験がスパークし、新たな発見が生まれるのです。これをぜひ多くの研究者にも実感してもらい、どんどん創薬を進めていきたいです。日本の創薬の底上げを実現したいですね。