創薬におけるAI(人工知能)の活用の中でも、創薬の初期段階である標的探索、つまり標的候補を選出して研究開発を始める仮説段階でのAI活用に期待が寄せられています。

仮説の生成とは、標的分子と疾患との関連性を予測した疾患メカニズムを作成することであり、その仮説は医薬品開発の最上流である標的探索から上市するまでのプロセスの中で活用される最も重要なものの一つです。

自社開発の自然言語処理AIエンジン「KIBIT」を用いたFRONTEOの「Drug Discovery AI Factory」は、創薬のさまざまなフェーズで必要とされる仮説生成に特化したAIを活用し、創薬研究の効率化・加速化・成功確率向上を支援する新たなサービスを展開しています。

仮説生成とは

一般に、科学的研究における「仮説生成」とは、未解決の問題や未知の現象に対して新たな仮説やアイデアを提案するアプローチを指します。

研究へのアプローチには「仮説検証型」のアプローチもあり、仮説生成は新たなアイデアや方向性を探求するプロセスである一方、仮説検証型は既知の仮説や理論を検証するためのプロセスです。科学的研究では、この二つのアプローチが組み合わさることで進歩がもたらされます。

仮説
生成型

仮説生成型のアプローチは、科学的研究において新しいアイデアや理論を生み出す際に用いられます。研究者は既存の知識や観察から仮説を立て、それを基に実験や検証を行い、新たな知識や理論を見出そうとします。仮説生成は、科学者が既知の情報から新しい知識を生み出すことを目指して、新たな方向性や理論を探求するための重要なステップです。

仮説
検証型

仮説検証型のアプローチは、ある既存の仮説や理論が正しいかどうかを確かめるために用いられます。研究者は既存の仮説を元に具体的な実験や観察を行い、その結果から仮説の妥当性や正確性を検証します。このアプローチは科学的な厳密さを重視し、既存の知識や理論の信頼性を確立するために有用です。

創薬の課題と現状 ―新薬開発のための仮説生成のハードル

新薬開発の成功率は以前より低下する一方で、研究開発のコストは加速度的に高騰しています。中でも創薬のスタートである「標的探索」では、標的候補の選出と、それが疾患にどうつながるかという推定、つまり疾患メカニズムの予測が重要です。

標的分子の探索は、研究者自身のバイアスがかかったり、個人の知見頼みになってしまったりと課題も多く、創薬研究のボトルネックの一つです。また、それを裏付けるための疾患メカニズムの予測には多大な人的コストを要するうえ、外部に依頼しようとしても、疾患メカニズムなどの仮説を提供するAI創薬支援企業を日本だけでなく世界でも見つけることは非常に困難です。

創薬の起点となる仮説を生み出す "Drug Discovery AI Factory"

創薬の課題に対して、FRONTEOが立ち上げたのが、AIの力で創薬を支援する「Drug Discovery AI Factory」。創薬研究で新しいアイデアや方向性を生み出すための仮説を生成し、持続的に供給するプラットフォームです。

新薬の開発を始めるための仮説には、
・標的分子: 疾患との関連が予測される遺伝子・分子など
・疾患メカニズム: 標的分子がどのように疾患に関連するかなど
・患者情報: 対象と考える患者群ゲノム情報や疾患、症状など
・安全性情報: 候補となる薬剤の毒性など
・フィジビリティ: 実験モデル提案など
などの要素をすべて考慮する必要があるとFRONTEOは考えます。

「Drug Discovery AI Factory」では、膨大なデータ解析を強みとするAIを最大限活用することで、標的分子候補から作用機序の解析、関連する疾患のゲノム情報や新薬の安全性とその実験モデル提案まで 、一気通貫して仮説を生成することが可能になります。

新薬候補となる「標的分子の探索・選定」を、AIで網羅的・アンバイアスに実施

新規性の高い標的分子を選定するために、FRONTEOのAIがPubMed*の3000万報以上の文献情報を解析。疾患との関連が予測される遺伝子など、遺伝子発現解析やGWASなど既存のアプローチでは見つけられなかった新規性の高い標的分子を見つけます。
*米国国立医学図書館 国立生物科学情報センターが運営する生物医学領域論文データベース

新薬候補の「仮説生成」がAIで可能に。バイオロジストが仮説まで提案

一方、新規性の高い標的分子のリストだけでは、創薬プロセスはなかなか進められません。仮説生成に特化したFRONTEOのDrug Discovery AI Factory では、AIと創薬に精通したバイオロジストが、AIを活用した複数の解析手法から仮説につながるヒントを読み解き、バックグラウンドなども含めた裏付けを実施。AIで得られた新規性の高い標的からさらに絞り込むことで、成功確度が飛躍的に高まります。

仮説生成AIが、新薬開発への仮説を生成できるテーマ

5つの解析手法で創薬の仮説生成を支援 "DD-BKM"

FRONTEOの自然言語処理AI「KIBIT」と創薬研究者の融合である「Drug Discovery Best Known Methods(DD-BKM)」。現在5つのメソッド(解析手法)があり、この手法を研究者が組み合わせて解析し、人のみでは思いつかないようなヒントを獲得して仮説を生成していきます。

  • 重複差分解析 ~疾患ネットワークを比較して共通・固有のパスウェイを見出す~
  • 二次元マッピング解析 ~医学論文をAIで解析し、概念的な類似性でマッピング~
  • ベクトル加算解析 ~自然言語的アプローチで、重要な因子を見出す~
  • 多面的解析 ~多面的な項目を網羅的に解析し、遺伝子の創薬標的としてのポテンシャルを分析~
  • Virtual Experiments ~遺伝子を仮想的にノックアウトし、パスウェイの変化をシミュレーション~

AIとそれを駆使するバイオロジスト

医薬品開発という専門性の高い領域において情報を解析し、革新的なアウトプットを導き出すには、創薬・AIの双方に精通したバイオロジストの参画が不可欠です。

FRONTEO Drug Discovery AI Factoryの研究者チームはライフサイエンス分野の豊富な知見を持つバイオロジストで構成され、自社開発のAIエンジン・アプリケーションを自ら駆使します。製薬会社のニーズを深く理解し、同時に独自の解析手法を組み合わせて解析を進めることで、未報告かつ成功確度の高い標的の提示と、その仮説生成を実現します。

これまでの実績 ―vivoでの薬効確認まで至った実績も

すでに20件以上の案件を受託し、標的探索、適応症探索、薬剤併用、バイオマーカー探索などさまざまな顧客のニーズに対応しています。実際にある案件で、論文に疾患とのつながりが直接記載されていない、非常に新規性が高い20の標的分子を提案し、うち5つがvitroで、さらに1つはvivoでも薬効が確認された実績があります。各製薬企業のニーズである、新たな疾患領域の立ち上げやパイプライン強化、適応症の早期拡大や候補化合物の再活用といった課題に、AIとそれを駆使するバイオロジストの融合で応えます。

今後の展望:仮説生成AIを、創薬プロセスの一角に

これまでは研究者の個別の努力で、時間をかけて組み上げてきた新薬開発の仮説。FRONTEOは、創薬プロセスの始まりであるその「仮説生成」をAIで一新し、以前より飛躍的に速く、かつ継続的に仮説を生成することで、製薬企業の創薬研究を支援します。

FRONTEOのDrug Discovery AI Factoryは、仮説生成に特化したプラットフォームとして、これからの創薬プロセスにAIを組み込み、創薬の分野でもさらなるAIの社会実装を進めていきます。

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