記者発表会レポート:FRONTEO DDAIF Innovation Bridge

2026年04月01日配信

日本の創薬エコシステム強化に向けた、FRONTEOとバイオベンチャーによる新共同創薬エコシステム事業発表

1. 開催概要

株式会社FRONTEOは2026年2月12日、「日本の創薬エコシステム強化に向けた、FRONTEOとバイオベンチャーによる新共同創薬エコシステム事業発表」と題した記者発表会を開催した。A創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」を基盤とする新規事業「DDAIF Innovation Bridge」の本格始動を発表するとともに、第1弾として参画する5社のバイオベンチャーを紹介した。

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2. 基調講演:中外製薬 名誉会長 永山 治 氏

 

 

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記者発表会の冒頭では、創薬エコシステムの第一人者として知られる中外製薬名誉会長の永山治氏が基調講演を行った。永山氏は内閣府のバイオエコノミー戦略有識者会議の座長、バイオインダストリー協会の名誉理事長、さらにGreater Tokyo Biocommunityの責任者という多角的な立場から、日本の創薬産業が直面する構造的課題について問題提起を行った。

 

 

 

日本の創薬力の現状

永山氏はまず、2025年における厚生労働省による新薬承認状況に言及した。承認取得数の上位10社を見ると、日本企業は中外製薬と武田薬品の2社にとどまり、残る8社はすべて外資系企業であったという。20位まで広げても傾向は変わらず、日本の製薬企業の存在感が低下している現状が浮き彫りになっていると指摘した。
一方で日本は、坂口志文氏、本庶佑氏、山中伸弥氏をはじめ、ライフサイエンス分野で複数のノーベル賞受賞者を輩出しており、基礎研究の水準自体は世界トップクラスにある。にもかかわらず、優れた研究成果を「薬にする」社会実装へのプロセスが決定的に弱い──これが日本の創薬産業の根本的な課題であると強調した。

バイオベンチャーとエコシステムの欠落

その背景として、永山氏は日本のライフサイエンス系ベンチャー企業の数が米国のわずか17分の1にあたる約700社にとどまっている現状を挙げた。米国では1970年代のジェネンテック、アムジェンの創業に端を発し、アーリーからレイトステージまで重層的なベンチャーキャピタルが整備されてきた。その結果、基礎研究や初期開発はベンチャーが担い、臨床開発後半で大手製薬企業が買収・提携を通じてグローバル展開を図るという分業型の創薬エコシステムが確立されている。
これに対し、日本ではこうしたエコシステムの基盤がほぼ存在しておらず、例えば抗体医薬を製造するCMOのような周辺インフラも乏しい。永山氏はこのような問題認識を踏まえたうえで、FRONTEOのAI創薬技術に対して強い期待を表明した。

 

FRONTEOが登場し、画期的なAI創薬を目指していることに、大きな期待を寄せている。 永山 治 氏(中外製薬 名誉会長)

3. FRONTEO新共創ビジネスのご紹介

3-1. 守本正宏 代表取締役社長/CEO

■ 日本の創薬力──「技術力」と「資金力」

fronteo-tagcyx-3守本社長は冒頭、日米の創薬力の比較データを提示した。年間の新薬承認数は米国が平均約50に対し、日本は平均1.6。研究投資額はNIHとAMEDの比較で約200倍の差がある。しかし「1億ドルあたりの新薬承認数」で比較すると、日本のほうがむしろ効率的であり、問題は技術力ではなく資金力にある─と指摘した。

 

 

 

 

fronteo-tagcyx-4ただし「では単純に資金を増やせばよいか」と問いかけ、それだけでは解決しないと続けた。半導体産業には効率化が年々進む「ムーアの法則」がある一方、医薬品産業では9年ごとに研究開発費が倍増する「イールームズの法則」が知られている。これはムーアの法則の真逆であり、資金投入だけに頼る時代は終わったという認識を示した。

 

 

■ なぜ創薬は難しいのか──「標的分子」が勝負を決める

守本社長は、臨床試験に入った化合物の9割が脱落するという現実に触れた。脱落の主因は有効性と安全性であり、その根本にあるのが「標的分子の選択」である。適切な標的分子を見つけるには、疾患の生物学的メカニズム(バイオロジー)の解明が不可欠であると強調した。

fronteo-tagcyx-5米国のAI創薬企業の多くは、患者データやゲノムなどのリアルワールドデータを大量に集め、スーパーコンピューターとAIで解析するアプローチをとっている。しかし現在のAIが見つけられるのは「相関関係」までであり、いくら相関を積み上げても「因果関係」を正しく解明することはできない。結果として、相関データの検証にウェットラボでの膨大な実験が必要となり、なかなか成果が出ないのだと分析した。

 

 

■ 論文解析から因果関係を導く『トヨシバ方程式』

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これに対しFRONTEOのAI創薬支援サービス「Drug Discovery AI Factory」は、論文の自然言語処理から因果関係マップを構築する独自のアプローチをとる。守本社長は、取締役CSOの豊柴博義氏が発明した独自の方程式によって、①極めて新規性の高い標的分子の候補を抽出することができ、②数百次元のコーパスから因果関係マップを生成し、③疾患メカニズムの仮説構築からシミュレーションによる検証までを「パソコン1台で」実現できると説明した。大規模データセンターもウェットラボも必要としない点が、従来のAI創薬との大きな差別化要因である。

 

■ バイオベンチャーの悪循環を断ち切る

fronteo-tagcyx-7続いて、今回の発表の中核であるDDAIF Innovation Bridgeの全体像が語られた。創薬エコシステムにおけるバイオベンチャーの重要性は年々高まっており、その育成・支援は待ったなしの課題となっている。
一方で、バイオベンチャーは資金調達と研究進捗がセットになっており、研究が一度失敗すると資金を集めるロジックが崩れ、さらに研究が止まるという悪循環に陥りやすい。かといって、米国並みの資金を日本で直ちに用意するのは現実的ではない。

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現在、創薬標的として研究されている分子は2〜3万個の候補のうちわずか約1,000にすぎない。人間の専門家はこの「約1,000の枠」から逃れられず、アカデミアから生まれた新しい作用機序を正当に評価できないリスクがある。

DDAIFはこの限界を突破し、未踏の標的分子の可能性を客観的に評価できる点で、ベンチャーキャピタルや製薬企業の目利き機能を補完・強化するとした。DDAIFの仮説生成能力を活用し、バイオベンチャーの研究を「テクfronteo-tagcyx-9 ノロジーの力で加速させる」という発想で設計されたのがDDAIF Innovation Bridgeである。FRONTEOはサイエンス支援(DDAIFによる仮説生成・検証)と、必要に応じた資金FRONTEO DDAIF Innovation Bridge | 記者表会 開催レポートPage 6支援(投資)の両輪で、ベチャーの悪循環を好循環に転換する。

 

 

 

守本社長は約30社以上のスタートアップと面談したうえで本日の5社を選定したことを明かし、今後の展望とて「50社から 100社との提携、最大1兆円規模の総合経済効果を目指す」と表明。質疑応答において守本社長はこの1兆円の根拠を補足し、「50〜100社と提携し、1社たり2〜5件の導出が実現した場合の、バイオベンチャーとFRONTEO自身を含む創薬エコシステム全体の総合的な経済効果」であると説明した。

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3-2. 豊柴博義 取締役/CSO(Chief Science Officer)

■ 「非連続的発見」──FRONTEOだけが実装する独自アルゴリズム 

豊柴CSOは、AI創薬には「連続的発見」と「非連続的発見」の2種類があると説明した。連続的発見とは、AがBに関係し、B がCに関係する……という既知の関連をつなぎ合わせて新たな関係を見出す手法であり、生成AIや大規模言語モデルはこの領域に強い。
一方、FRONTEOが目指す非連続的発見とは、膨大な知見を蓄積した結果として、まだ論文に明記されていない「潜在的な関連性」を浮かび上がらせるアプローチである。豊柴氏が発明した独自の方程式により、数百次元の最適化を低計算コストかつ高精度で実現でき、この非連続的発見を可能にしているという。世界でこのアルゴリズムを実装しているのはFRONTEOのみであるとの説明があった。

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 ■ 仮説生成とアブダクション(仮説的推論)

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豊柴CSOは、FRONTEOの仮説生成プロセスが科学哲学で「アブダクション」と呼ばれる仮説的推論と同じ構造をもつことを解説した。既知の事実を集め、それらを最もよく説明する仮説を構築するプロセスであり、新しいものを見つけ出す唯一の推論形式として知られている。

 

 

 

 ■  インテリジェンス創薬──「面」で疾患と標的分子を見る

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さらに、FRONTEOが推進する「インテリジェンス創薬」のコンセプトが紹介された。従来の創薬が「ひとつの標的分子×ひとつの疾患」という点で見るのに対し、FRONTEOは「疾患×標的分子」をマトリックス(面)として網羅的に把握する。エヌビィー健康研究所とのPoCでは、約700のGPCRと1万6,000の疾患の関連性マトリックスをすでに構築済みであり、そこから約2,000万の潜在的GPCR創薬仮説をアセットとして保有してると明らかにした。

4. 参画企業5社の紹介

DDAIF Innovation Bridgeの第1弾として参画する5社は、抗体、ゲノム編集、細胞治療、核酸アプタマー、糖鎖修飾と、それぞれ異なるモダリティの最先端技術を有するバイオベンチャーである。

4-1. C4U──次世代ゲノム編集で遺伝子治療の未来を拓く

C4Uの平井昭光代表取締役社長は、海外で発明されたCRISPR-Cas9とは異なる日本発のゲノム編集技術「CRISPR-Cas3」を基盤とした事業を紹介した。デュシェンヌ型筋ジストロフィーや原発性免疫不全症などの難治性疾患に取り組んでおり、AMEDの支援を受けて研究を推進、住友化学・住友ファーマの合弁会社であるRACTHERAやノイルイミューン・バイオテックなど国内外の企業とも提携している。
同社が抱える課題は「次のアセット探索」であり、成長の階段を上るために不可欠な新規パイプラインの発掘が人力では限界があると率直に語った。FRONTEOのDDAIFを活用した非連続的発見と膨大な文献解析によって、人間では見出せなかった遺伝子治療の新領域を開拓する意欲を示した。

4-2. セルアクシア──ダイレクトコンバージョンで細胞治療の壁を突破

セルアクシアの関誠代表取締役社長は、同社が推進する2つの細胞治療プロジェクトを解説した。先行するE-MNCプロジェクトはすでに臨床試験で良好な安全性と薬効を確認済みであり、もうひとつのDCプロジェクトはiPS細胞とは異なり、体細胞から別の体細胞へ直接転換する「ダイレクトコンバージョン」技術を基盤としている。同社のDC技術は高いコンバート率を化合物1つだけで達成するという際立った特徴をもつ。
課題は細胞治療薬全般に共通する品質のばらつきで、その原因はエピゲノム(クロマチンの状態)の違いにあると考えられている。この解明には膨大な実験が必要となるため、FRONTEOのDDAIFを活用して製造効率と細胞機能の両面を向上させる新しい取り組みに挑戦する。

4-3. タグシクス・バイオ──人工塩基技術で核酸アプタマー創薬をリード

タグシクス・バイオの古関千寿子代表取締役社長は、東京大学発スタートアップとして世界トップの人工塩基対技術を擁する同社の創薬戦略を紹介した。核酸アプタマーは中分子薬に分類され、抗体医薬が苦手とする局所投与が可能であり、胎盤を通過しないため妊婦にも投与できるという独自の利点をもつ。
自己免疫疾患やフェムテック(女性特有の疾患領域)に特化し、すでに米国の投資先 CAGE Bio が臨床試験を開始している。同社は自社の研究員による文献調査の限界を率直に認め、FRONTEOのKIBITによって「予想のつかない方向性の知見が出てきている」と期待を語った。 

4-4. 糖鎖工学研究所──「第三の生命鎖」で医薬品の可能性を広げる

糖鎖工学研究所の朝井洋明代表取締役社長は、DNA・RNA・タンパク質に次ぐ「第三の生命鎖」と呼ばれる糖鎖の合成・修飾技術を紹介した。京都を拠点とし、大塚グループから2012年に分社化された同社は、糖鎖の合成技術、cDNAディスプレイによるペプチドスクリーニング、さらに脳内デリバリー(Nose to Brain)技術の3つのプラットフォームを有する。
ソマトスタチンというペプチドホルモンに糖鎖を付加することで、天然物とほぼ同じプロファイルをもちながら薬として使える形にすることに成功しており、先端巨大症患者で有効性と安全性をすでに確認済みである。FRONTEOのDDAIFを活用し、この「マルチファンクション」な候補薬の新規適FRONTEO DDAIF Innovation Bridge | 記者発表会 開催レポートPage 9応症探索に取り組む。

 

5. エヌビィー健康研究所 PoC 成果発表

参画企業のなかで最も進捗が早く、すでにセカンドフェーズへの移行を発表したのがエヌビィー健康研究所(NBHL)である。同社の髙山喜好代表取締役社長が、GPCR 抗体創薬の全体像とPoC成果を詳細に発表した。 

5-1. GPCR 抗体創薬という「鉄板の仮説」

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NBHLは「治らない病気を、治せる未来へ」をミッションに掲げ、自己免疫疾患と線維症に特化したGPCR抗体創薬を推進する札幌発のバイオベンチャーである。GPCRは市販薬の30〜40%が標的とする最重要分子であり、抗体医薬は臨床成功確率が高いモダリティとして知られる。

 

 

 

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髙山社長は、GPCR抗体の連続的な生産が「不可能」とされていた課題を10年かけて解決し、独自の抗体医薬品ディスカバリープラットフォーム「MoGRAA」を開発したことを語った。GPCRの構造を「動画(TikTok 的)」にとらえることで、「静止画(Instagram的)」にしかとらえられない競合技術との差別化を図っている。すでに5種類のGPCR抗体の連続開発に成功し、研究段階ではなく事業化が回るステージに到達しているという。

 

 

髙山社長は、『「治らない病気を、治せる未来へ」というミッションを実現するために、今回FRONTEOと組んだ。
臨床開発の成功確率が低いことの、根本的な原因は創薬の標的探索段階での「仮説の誤り」である。
仮説をいかに構築するかが、創薬の成功を決める。
FRONTEOとともに、この根本課題を打ち破り、革新的な治療を届ける世界を作り出す』と語った。

5-2. PoC成果

成果 1:既存パイプラインの価値最大化 

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1万6,000種類の疾患からわずか4カ月で29の候補適応疾患を絞り込んだ。製薬企業パートナーが求める適応症への絞り込みも行い、すでに前臨床開発を開始してる。

 

 

 

 

成果 2:GPCR創薬仮説の新規探索

fronteo-tagcyx-17約2,000万ある潜在的GPCR創薬仮説の海から、自己免疫疾患の一分野である強皮症に絞って6個の新規GPCR標的を同定した。既存の医薬品標的に匹敵するレベルのターゲットが含まれるという。

 

 

 

 

5-3. 髙山社長のメッセージ

 髙山社長は、過去30年間で人間が証明できたGPCR創薬仮説はわずか399種類であり、2,000万の仮説の海のうち0.0019%にすぎないと指摘した。「この仮説の海をもう人間の頭で泳ぐことは難しい」と述べ、KIBITの登場がこの状況を根本的に変えうるとの見解を示した。
その一方で、KIBITが示す結果はあくまで「最大の可能性を示すツール」であり、最終的な判断はNBHLの創薬チームとFRONTEOのライフサイエンスAIチームの知見と経験によって行われると強調した。

 

創薬を「一か八かの勝負」ではなく、再現性のあるプロセス──半導体と同じようなプロセス──に変える試みをしている。その結果、確かにそれができそうだというところまでようやく来た。 ── 髙山 喜好 氏(エヌビィー健康研究所 代表取締役社長)

 

さらに髙山社長は、発表の締めくくりとして、「難病治療に革新的抗体を最短で世界へ」という言葉はもはやメッセージではなく、社会実装に向けたコミットメントであると宣言した。FRONTEOとの協業によって創薬を「一か八かの勝負」から「再現性のあるプロセス」へと変えるという確信が、そのまま言葉になったと言えるだろう。

 

■DDAIF Innovation Bridgeの概要

FRONTEOが提唱する「Innovation Bridge」は、研究の停滞と資金不足の悪循環に苦しむ日本のバイオベンチャーにとって、AIという新しいインフラを通じた突破口を提示するものである。基調講演の永山氏が指摘した「エコシステムの欠落」という日本の構造的課題に対し、巨額の資金投入ではなくテクノロジーによる効率化で挑む──この点がInnovation Bridgeの本質的な価値提案と言えるだろう。
なお、質疑応答では「各社が横断的にデータを共有するコンソーシアム型か」という鋭い問いが記者から出された。守本社長はこれに対し、「各モダリティ・各疾患が異なるため横断連携を強制するものではなく、あくまでFRONTEOがバイオベンチャーと製薬メーカーをつなぐ垂直的なブリッジである」と明確に答えた。この回答は、DDAIF Innovation Bridgeの本質的な設計思想──AIを介した「創薬プロセスの垂直統合」──を端的に示すものとして印象に残った。


エヌビィー健康研究所のPoC成果がすでにセカンドフェーズへの移行を後押ししている事実は、この構想が机上の理論にとまらないことを示している。最短で2026年度中の導出を視野に入れるという具体的なタイムラインが示されたことで、今後はその実行力が問われるフェーズに入る。
「日本を再び創薬の地へ」──その言葉が単なるスローガンではなく、具体的な事業モデルと実証済みの成果を伴って語られた本記者発表会は、日本の創薬エコシステム再生に向けた確かな一歩として、強く記憶に残るものとなった。

 

ご参考

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