2026年09月03日配信
エヌビィー健康研究所は、GPCRを標的とした独自の抗体医薬品ディスカバリープラットフォーム「MoGRAA」を基盤に、抗体創薬に取り組む北海道大学発認定スタートアップです。
FRONTEOとは2025年に共創を開始し、PoCで得られた成果をもとに、現在は共同研究へと協業を発展させています。また、このPoCの成果は、FRONTEOがバイオベンチャーの創薬シーズの事業化を支援する共同創薬エコシステム事業「DDAIF Innovation Bridge」を開始する契機となっています。
本講演では、KIBITを活用した新規GPCR標的探索、新規適応症探索、PDマーカー・患者層別化マーカー探索の成果と、AIによるGPCR抗体創薬の効率化についてご紹介いただきました。
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株式会社エヌビィー健康研究所 代表取締役 髙山 喜好 様 |

エヌビィー健康研究所は、20年以上にわたりGPCR(Gタンパク質共役受容体)を標的とした抗体創薬技術を磨き続けてきました。従来は困難とされてきたGPCR抗体を継続的に創出できる独自プラットフォームを確立し、現在では複数の創薬パイプラインを保有しています。
GPCRを従来の技術のように「静止画」として捉えるのではなく「動画」のように動的な状態で捉える独自技術により、生体内に近い状態で機能する抗体の創製を目指しています。
こうした独自技術を基盤に、現在は6つのパイプラインを保有しており、そのうち複数のアセットについて海外の大手製薬企業との交渉を進めています。

一方で、新規GPCR標的探索や既存アセットの価値向上、PDマーカー・患者層別化マーカー候補の探索など多くの課題が存在します。
特に創薬ベンチャーでは、限られた時間とリソースの中で圧倒的な実行回数を回し続けることが競争力になる中で、一人の人間が考えられる仮説には限界があります。セレンディピティに出会うためにも、数千、数万回という実験を繰り返せる「圧倒的な実行回数」が重要だと考え、AIを研究開発に導入しました。

最初のテーマは、強皮症に対する新規GPCR標的の探索です。
約500種類のGPCRとFRONTEOが取り扱える約16,000疾患の組み合わせ、またアゴニスト・アンタゴニストという作用方向まで考えると、理論上は約2,000万通りもの仮説が存在します。しかし、これまで実際に創薬へ結び付いた組み合わせはごくわずかでした。

そこでKIBITを活用し、まずは自己免疫疾患領域を対象に、新たなGPCR創薬テーマの探索を進めました。
AIによる解析結果に対して研究者が評価・検討を重ねることで候補を絞り込み、78候補から最終的に6つの新規GPCR創薬仮説を抽出しました。
この一連のプロセスに要した期間は、わずか4か月でした。

今回の解析では、KIBITが提示した候補の中に、長年GPCR創薬に取り組んできた研究者が有望だと考えていた標的も含まれていました。
研究者の経験に基づく評価とAIによる解析結果が一致したことで、KIBITによる探索への信頼につながりました。
その上でこれまで着目していなかったGPCRも候補として提示され、既存医薬品の標的となっているGPCRと比較しても遜色のないスコアを示しました。
こうした結果を踏まえ、新たに提示された候補についても投資を決定しました。現在は細胞レベルでの検証を進めており、AIによる仮説創出から実際の研究開発へと取り組みが進んでいます。

次に取り組んだのが、既存アセット(NBG025)の新規適応症探索です。
創薬を取り巻く競争環境は、非常に速いスピードで変化しています。研究開始時には新規性の高かったアセットでも、開発を進める間に競合する低分子や抗体医薬が登場し、当初想定していた適応症だけでは十分な競争優位性を確保できなくなることがあります。
そこで、競合に追いつくだけではなく、アセットそのものに新たな価値を付加するため、KIBITを活用した新規適応症探索に取り組みました。

解析では、約16,000疾患から新たな適応可能性を探索し、KIBITによる解析結果をもとにFRONTEOと当社研究者が検討を重ね、29疾患まで候補を絞り込みました。その中には、これまでの知見から関連性を想定できる疾患だけでなく、新たな可能性を示す候補も含まれていました。
さらに疾患としての可能性や開発戦略などを検討し、新たに投資する適応症を糖尿病関連腎疾患(DN)に決定しました。現在海外製薬企業との具体的な協議も進んでいます。

さらに、創薬標的や適応症を見つけるだけでなく、その先の臨床開発を見据えて取り組んでいるのが、PDマーカーと患者層別化マーカーの探索です。
患者層別化マーカーは、薬剤を投与する前から「効果が期待できる患者」と「効果が期待しにくい患者」を可能な限り見極めるためのものです。効果が期待できる患者群を適切に選択できれば、より少ない患者数でも薬効を評価しやすくなり、より精密かつ効率的な臨床開発につながると考えています。

また慢性疾患では、受容体への結合だけでなく、将来的な薬効を予測できるPDマーカーも重要になります。そこで、KIBITとFRONTEOのサイエンスチームとともに、その候補探索を進めました。

実際の解析では、対象となるGPCRが糖尿病性腎症の進行した患者群で多く発現する傾向が確認されました。
さらに、ある炎症関連因子との発現に明瞭な相関が見られたことから、GPCR受容体経路と炎症経路の間にクロストークが存在する可能性が浮かび上がりました。これまで明確ではなかった関係性から、新たな作用メカニズムの仮説を創出することができました。

さらに、対象GPCRの発現が高い患者群と低い患者群を比較し、血液や尿などから患者の状態を捉えることを想定して、特に分泌因子に着目しました。
KIBITとFRONTEOのサイエンスチームによる解析から27種類の遺伝子候補を抽出し、その中から注目すべき炎症性サイトカインとの関係性を見いだしました。この因子は別の腎疾患ではすでに創薬標的となっていましたが、今回対象としたGPCRとの関係性は新たな発見でした。

今回の共創によって、新規GPCR標的探索、既存アセットの高付加価値化、PDマーカー・患者層別化マーカー探索という複数のテーマが前進しました。
重要なのは、実行回数の多さをどう担保するかです。1回でセレンディピティは起きません。本来は数千、数万回の実験を繰り返して初めて出会うことができるものです。
今後はFRONTEOとの共創を通じて、仮説設定からヒトでのPoCまでを高速に回し、『圧倒的な実行回数』をよりスマートに実現することを目指します。こうしたサイクルを今後1年以内に実現できれば、一つの成功だと考えています。
(講演日:2026年7月23日)