2025年07月23日配信
FRONTEOは、2025年7月23日に開催した『AI創薬支援「FRONTEO Drug Discovery AI Factory」(以下、DDAIF)の有用性を示す すい臓がん標的探索の実例発表会』にて、DDAIFを活用したすい臓がん標的探索の検証結果を紹介いたしました。すい臓がんは治療選択肢が極めて限られ、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患の一つとされており、本事例はその領域に新たな可能性を示すものです。
本レポートでは、発表会で紹介された内容から、既存文献に未掲載の新規性が極めて高い標的分子候補やメカニズムをDDAIFがどのように導き出し、その有効性を細胞実験によりどのように実証したのかをご紹介します。本発表は、DDAIFの非連続的な発見能力の有効性を示すとともに、難治性疾患に苦しむ患者への新たな貢献となり得る、社会的インパクトがある取り組みと位置づけています。
創薬力の強化は日本にとって喫緊の国家課題となっています。日本では長年にわたり医薬品の輸入超過が続いており、医薬品の供給を海外に依存しない体制の構築が急務です。
しかし創薬研究はすでに成熟期に入り、比較的開発の容易な医薬品は多くが既に上市されています。一方、疾患の複雑化・多様化に伴って標的分子の“枯渇”が深刻な課題となっています。“ファースト・イン・クラス”と呼ばれる先発優位性の高い新薬の開発が求められますが、そのためには、これまで見つかっていないメカニズムで疾患の症状改善に取り組む必要があり、論文やデータベースにも記載のない「新しいバイオロジー」の発見が不可欠です。しかしこうした情報の特定は、従来の研究手法やAIでは極めて困難でした。
「FRONTEO Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」は、こうした課題に対し、独自の自然言語処理AI技術を駆使することで、論文未報告の未知の疾患との関連性を抽出できる革新的な創薬支援を可能にします。
「FRONTEO Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」は、自然言語処理に特化したAI「KIBIT(キビット)」(日米欧特許取得済)と、FRONTEOの創薬研究者およびAIエンジニアの知見を融合したAI創薬支援サービスです。疾患関連遺伝子ネットワークの解析や、標的候補に関する仮説の構築を通じ、医薬品開発における研究者の意思決定を強力にサポートします。
従来のアプローチである連続的発見では、研究者が求めるような新しい発見を導き出すことは困難です。これに対し、FRONTEOは「非連続的発見」の概念に基づく新しいアプローチによって、論文に記載されていない疾患と遺伝子の関連性を予測することが可能となります。
FRONTEOの標的探索は、通常の検索では見つけることができない新たな関連分子の発見を通じて、新しいバイオロジーをもたらし、それ自体が重大な発見につながる可能性を秘めています。
すい臓がんは、5年生存率が10%未満と部位別で最も低い水準にあることで知られています。また、治療薬が限られており、毒性の強い化学療法剤に頼らざるを得ない現状があるうえ、化学療法が効かなくなった場合には、有効な治療選択肢が著しく限られてしまいます。
つまりすい臓がんはアンメット・メディカル・ニーズの極めて高い疾患の一つであり、新たな治療標的の探索が重要な課題となっています。そこで今回、私たちは自社開発AIの「KIBIT」を活用したDDAIFで、新規の標的分子候補の抽出に取り組みました。
FRONTEOは、DDAIFを活用してFRONTEO独自のネットワークを描き、約2万個のヒトの全遺伝子の中から、すい臓がんに特異的でがんの特性(異常な細胞増殖性など)と関連性の強い遺伝子として標的候補17遺伝子を抽出しました。
従来の創薬研究におけるアプローチでは、こうした標的候補を抽出する「標的探索」のプロセスに2年以上を要することも珍しくなく、特に文献に記載のないような新規性の高い標的分子を見出すことは時間をかけても非常に困難です。一方、DDAIFはこれをわずか2日で達成します。
今回抽出した17個の標的候補をすい臓がん細胞株で一過性に発現を抑制し、細胞増殖あるいは生存に及ぼす影響を評価しました。
すい臓がん細胞株で細胞増殖への影響を調べたところ、このうちのうち6遺伝子で、働きを押さえた場合に何もしなかった場合に比べて約4~6割のがん細胞の増殖抑制が確認されました。
細胞実験の結果をグラフ化したものがこちらです。6遺伝子で、すい臓がんの原因となり、細胞のがん化促進に特に重要な影響を持つ遺伝子として知られる「KRAS(ケーラス)」にも匹敵する細胞増殖の抑制が確認されました。
この6遺伝子のうち、4遺伝子についてはすい臓がんとの関連性を報告した論文はゼロ、つまり存在せず、残りの2遺伝子も論文は1報のみでした。つまり、極めて新規性が高い標的候補を複数抽出することができたということがわかります。
今回の検証ですい臓がんの新規標的をKIBITで実施したところ、KRASに匹敵する影響を持つ複数の標的分子候補を見出すことに成功しました。
これらの候補は、いずれもこれまで文献などで報告された例がなく、高い新規性を有する点でも注目に値します。
さらに特筆すべきは、通常であれば数年単位の探索を要するような成果を、わずか2日という短期間で導き出せた点です。FRONTEOのAI「KIBIT」は、創薬で最も重要な標的探索を劇的に加速化できることが実際に示されました。
今回の結果が、そのまますい臓がんの新薬につながるかは継続的な検証を要しますが、KIBITが予測した複数の標的候補は、すい臓がん細胞株に対して明確な影響を示し、かつこれまですい臓がんとの関連性が報告されていない新規性の高いものでした。
今後、これらの効果のみられた標的候補について、東京科学大学やオクラホマ大学をはじめとする共創パートナーと連携し、作用機序の解明や動物実験による検証を予定しています。将来的には、製薬企業への導出も検討します。標的候補に対する化合物 (低分子や抗体など)を獲得するという課題も控えています。
疾患の標的分子を探索しメカニズムの仮説をたてるという、従来であれば2年以上を要するような結果を、FRONTEOはわずか2日で出すことができました。これは今後の創薬加速化に大きく貢献する成果であり、「すべての人に等しく医療を提供する」ことへの貢献につながると考えます。
FRONTEOは、創薬支援サービス「FRONTEO Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」を核とした「共創型創薬エコシステム」を展開しています。本エコシステムでは、DDAIFによって多数の標的候補と適応症仮説を高速で創出し、共創パートナーとともに創薬工程を推進することで、成功確率の向上や創薬コストの課題に取り組みます。現在、テクノプロ・R&D社がウェット検証およびバーチャルスクリーニングの役割を担い、パートナーとして参画しています。引き続き、当社は本構想の早期実現を目指し、多様な企業・アカデミアとのパートナーシップを推進してまいります。