エーザイ株式会社 様:エーザイにおける創薬標的探索研究の取り組みとKIBITの活用

2025年10月02日配信

エーザイ株式会社では、創薬の難易度が高まるなか、遺伝子情報に基づく強固なエビデンスの活用を重視するなどしてさまざまな取り組みを進めています。

同社ではターゲット探索において疾患との新たな関連性を探し出すこと、そしてヒューマンバイオロジーに基づく強固なエビデンスを臨床や研究開発に活用することが、創薬において不可欠だと考えています。こうした課題に対応するためにエーザイ株式会社がAI創薬におけるFRONTEOとの共創プロジェクトに取り組んだご講演内容を、本記事でご紹介します。

ご講演者

  エーザイ株式会社
DHBL ヒューマンバイオロジークリエーションハブ インテグレイティッドデータサイエンス
ヒューマンバイオロジーデータエコシステム部 部長
高橋 健太郎 様

 

 

 

1.FRONTEOとの共創プロジェクト -
アルツハイマー病を含む神経変性疾患領域において

 

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エーザイ株式会社では、FRONTEOのAI「KIBIT」を活用した新規仮説創出におけるAIの有用性評価を目的に、神経変性疾患領域での新規ターゲット探索というテーマで、共創プロジェクトとしての取り組みを約3ヵ月間実施しました。対象疾患は、アルツハイマー病を含む神経変性疾患12疾患を選定しています。

初めに、選定した12疾患と関連する生物学的概念の情報に関わる遺伝子群から遺伝子リストをFRONTEOで作成し、その後、in silico(インシリコ)での評価やさまざまなエビデンスをもとに97遺伝子に絞り込んだのち、最終的に詳細な調査等を経て10個の候補遺伝子の選出に至りました。

 

2.絞り込みステップの特徴と、絞り込み概要

 

最初の遺伝子リストの作成では、FRONTEOのAI「KIBIT」で疾患や生物学的概念に関連する遺伝子群から991遺伝子に絞り込みを行いました。「KIBIT」は単語そのものだけではなく周りの単語まで含めてベクトル化することで、概念を抽象化して新たな関係性を見出だす「非連続的発見」ができるアルゴリズムを持ちます。あらゆる関連性の解析を通して「目的の疾患と直接関係しないが可能性のある候補」をAIが示唆してくれる点が、非常に大きな進歩をもたらしてくれると感じています。

 

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そして991個の遺伝子候補から97遺伝子への絞り込みでは、スライドのようなFRONTEOのVirtual Experimentという手法が活用されました。これは、In silicoで遺伝子をノックイン/ノックアウトすることでネットワーク上への遺伝子の影響度を評価する手法です。今回は、ある遺伝子をノックイン、またはノックアウトをした場合にどのような遺伝子群へ影響があるかを評価するスコアを活用しました。さらに、類似度や関連性、原因性スコアといった、AI「KIBIT」が算出する関連スコアも加味して標的候補の絞り込みを行っていきました。

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約3ヵ月という期間で、991遺伝子のロングリストの作成から10遺伝子の絞り込みまで進めることができました。これは、過去に類似の解析プロジェクトを他企業と行った経験から考えても、今回は非常に短期間で絞り込みを実施できたという実感があります。

最終的に新たな候補遺伝子を10個選出する際には、簡易調査や追加のネットワーク解析などを行いましたが、この中には目的の疾患と直接的なコネクションを持たない新たなターゲット遺伝子が1遺伝子、含まれていることがわかっています。今後はさらなる追加の検証等を、実験等も含めてエーザイにて検討する予定です。

 

3.共創プロジェクトからの知見

 

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今回の共創プロジェクトを通して、FRONTEOのAI「KIBIT」の強みが、既知のターゲットだけではなく「関係性が未知の標的を見つけられる」点だということをあらためて認識しました。

また、通常、新規の標的探索を実験する場合は動物などを用いて数ヵ月~1年以上かけて実験します。しかし今回、バーチャル上、つまりIn silicoの実験で標的候補を絞り込めたことで、このステップが非常に効率的になりました。

AIに人の活動を加えることでより加速させていく活動は「Human in the loop」と呼ばれます。本プロジェクトでも今回、エーザイのバイオロジストとデータサイエンティストに加えて、FRONTEOからも、AIだけでなく神経疾患領域にも非常に長けたバイオロジスト・データサイエンティストの方に参画いただいて研究を進められました。この点が、これまでのAIを活用した社外との標的探索研究と最も異なっていたと感じた点でした。

本プロジェクトでは公開データのみから新しい探索を行いましたが、FRONTEOの技術では「独自のデータ」も加味して解析することができると伺っています。将来的には、エーザイが持つ独自データや、コンソーシアムの大規模なデータを統合することで、さらに独自性のある標的候補リストを作れると考えています。

 

4.まとめ

 

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今回、AI「KIBIT」を用いて新たな「Human in the loop(HITL)」な創薬候補探索ができることを実感しました。これはKIBITの特徴である「新たな疾患との関連性まで探索できる」ことによるものと考えています。

課題としては、昨今ヒューマンバイオロジーが求められている中で、今後はエビデンスをどのように独自に強化していくかという点になります。独自データの活用やマルチオミックスのデータの統合が、今後のキーになって行くと考えています。

今回の研究はエーザイの研究員だけではなく、FRONTEOの多くの方々のご協力をいただいて進めることができました。今回の研究で、未知の領域に踏み出すことができたことに感謝申し上げたいと思います。