丸石製薬株式会社 様:新適応探索とバイオマーカー探索から得られたDDAIFの可能性

2025年10月06日配信

医薬品開発の現場では、生産性が低下する一方で研究開発費は増加を続けています。つまり「投資は膨らむのに成功確率は下がっている」という、ビジネスとしては極めて厳しい状況に直面していると言えます。

丸石製薬株式会社では、この状況を打破し、開発の成功確率を高めながらスピードを加速するためにパートナリングの活用に注力するとともに、競争力向上の手段の一つとしてAI創薬を位置づけました。そのパートナーにFRONTEOを選定し、ドラッグリポジショニングとバイオマーカー探索の推進に取り組まれたご講演内容を、本記事でご紹介します。

 

ご講演者

maruishi-senda   丸石製薬株式会社
研究本部・研究企画ユニット・リーダー
千田 裕一郎 様

 

 

1.FRONTEOとの協業

 

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丸石製薬では創薬への取り組みにおいて、4つの大きな枠組みを設定しました。すなわち、ターゲット選定、ドラッグディスカバリー、ドラッグリポジショニング、そしてバイオマーカー探索です。これをもとにAI創薬におけるパートナー企業の調査に着手しました。


(1)パートナー選定の要件

パートナー選定にあたっては、候補企業の技術力や協業の形態、活用可能なデータソース、さらにはAI技術や解析の対応範囲などを詳細に調査・ヒアリングを進めました。総合的に検討した末に、FRONTEOをパートナーとして選定し、ドラッグリポジショニングとバイオマーカー探索を共に推進していくことを決定しました。

 

◇参考:FRONTEOのプレスリリースより

・丸石製薬とFRONTEO、ドラッグリポジショニングに関する業務委託契約を締結,
https://www.fronteo.com/news/20231107

・FRONTEOと丸石製薬、Drug Discovery AI Factoryを活用したバイオマーカー探索に関する共創プロジェクトを開始
https://www.fronteo.com/pr/20250109

 

2.ドラッグリポジショニングにおいて大切なこと

 

実は丸石製薬では、FRONTEOとの協業以前に、新規化合物のリストアップを別のAIスタートアップに依頼したことがありました。その際は200ほどのデータをそのまま渡され、次にどのように検討を進めればよいか、非常に苦慮した経験がありました。この経験から、AIで得られたデータは「どのように優先順位をつけて次のステップへつなげていくか」が最も大切だと考えています。

 

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今回のドラッグリポジショニングのプロジェクトは、何度も協議を重ねて方針を決定した後、一次解析、二次解析、そして詳細調査という流れで進行しました。

(1)プロジェクト進行について
一次解析・二次解析では、FRONTEOのAI「KIBIT」を用いて、いくつかの候補疾患が上がってきました。
続く詳細調査は極めて重要なステップです。なぜなら、「AIから得られたデータをどのように次に活かすか」につながるためです。ここではFRONTEOのバイオロジスト・データサイエンティストが調査を深め、候補を絞り込んでいきますが、検討要素としては、まず疾患のアンメットメディカルニーズや、競合品や既存品も含めた市場性、何より研究の実効性が求められます。さらに、薬効や推定作用機序(MoA)、それに付随するPDマーカー、最後に、疾患に最もフィットする剤形なども考慮に入れて検討がなされました。

(2)AI「KIBIT」×バイオロジスト・データサイエンティストから導き出される「仮説を伴った候補」
もっとも、これらの検討要素はすべてをAIだけで導き出せるものではありません。FRONTEOからは、AIのみならずバイオロジスト・データサイエンティストが総合的に検討を済ませた「仮説を伴った候補」を、成果物として提示いただき、プロジェクトは完了となりました。

(3)契約終了後のWET検証の状況について

 

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本プロジェクト後に丸石製薬の中で進めている検証状況を、簡単にご紹介します。

公開できる内容は限定的ですが、ウェットでの検証において、FRONTEOとのプロジェクトの成果物である候補は有効性が見られ、非常にきれいな用量反応性があったという結果を得ております。今後は、他の疾患について継続して検討を進めるとともに、疾患にフィットする剤形も検討していくことを予定しています。

3.共創プロジェクトによるバイオマーカー探索

 

次にバイオマーカー探索のプロジェクトについてもご紹介します。本プロジェクトは、解析の段階から丸石製薬とFRONTEOで一緒に協議して成果物を生み出し、ウェット試験も二社で共に計画を立案して進めるという「共創プロジェクト」の形式で進めました。

 

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(1)一次解析の結果
一次解析の結果は800以上の遺伝子があり、この多数の候補を図のようにベン図様に区分けしながら、それぞれどのようなバイオマーカーに適するかをマッピングして優先順位をつけていきました。

候補の区分けにおいては3つの手法を組み合わせました。
・1つ目が、FRONTEOの独自技術である遺伝子ネットワークの解析技術を用いて複数のパスウェイの差分を解析する手法で、バイオマーカーになりうる候補を抽出していきます。
・2つ目もFRONTEOの独自技術で、Virtual Experimentsといい、カギとなる遺伝子をネットワーク上で仮想的にノックアウトしてAIに新しいパスウェイを導かせる手法です。この時に出現または消失するパスウェイを見て、その遺伝子が重要かどうかを検討していきます。
・さらに既知の情報であるGWAS-eQTL解析も用いて、患者と健常な人で発現が異なる遺伝子の情報なども付与していきました。

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ここで、バイオマーカーとして臨床で測定可能か、つまり、血液サンプルなど液性成分として検出できることが前提になります。ここまでは遺伝子を起点に解析を進めてきましたが、それぞれの候補が実際に測定可能かを見極めるスクリーニングを二次解析で実施しました。

すなわちスクリーニングの1つ目は、分泌因子に関わるものかどうか、2つ目は、細胞表面受容体になりうるか、最後の3つ目が、生合成関連因子かどうか、という観点です。

(2)最終的な成果物と今後の展開予定
最終的な成果物としては、実際には候補遺伝子が一覧で出てきましたが、図のようにベン図様のかたちで遺伝子をマッピングした状態でまとめられました。今回の結果を踏まえて今後はウェット実験を予定しています。動物実験やバイオバンクを活用したアプローチなど、次のステップをまさに進めているところです。

4.まとめ

 

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今回のAI創薬の取り組みを通じて、FRONTEOのDrug Discovery AI Factory(DDAIF)が極めて高い可能性を秘めていることを強く実感しました。なぜなら、AIが提示した候補に「情報を付与し、優先順位をつける」プロセスこそが、次のステップへとつなげるうえで極めて重要だからです。今回、FRONTEOのAI「KIBIT」に加えて、同じくFRONTEOのバイオロジスト・データサイエンティストをかけ合わせた体制――すなわち「AIと人の融合」によるDDAIFは、その点でまさに有効に機能していました。

さらに今回のプロジェクトを通じて、ドライ研究にウェット研究を重ね合わせて一体的に、つまりワンセットで検証を進めていくことこそが最終的に理想的な創薬につながると強く感じました。この点はぜひ強調してお伝えしたいと考えています。