徳島大学大学院 医学域 医科学部門内科系 臨床薬理学分野は、2020年10月より
論文探索AI「Amanogawa」を導入しています。同研究室教授/徳島大学病院薬剤部長の石澤啓介氏と、徳島大学病院薬剤部の濱野裕章氏に、利用の実際や文献検索の課題、今後の活用の可能性についてうかがいました。
■ AIの活用で効率化と新たな視点による発見が可能に
━━━ 主な研究内容と、Amanogawaを導入された背景をお聞かせください。
石澤: 当研究室のメイン研究テーマは「ドラッグ・リポジショニング」(以下:DR)です。DRとは、臨床で使用されている既存薬の新たな薬理作用を探索し、他の疾患の治療薬としての適応拡大につなげる研究と創薬戦略を指します。通常、情報源として医療ビッグデータが用いられ、当研究室では特にJADER*1、FAERS*2などの有害事象自発報告データベースを活用しています。
具体的な研究手法は、例えば昨年学会で報告した事例ですが、抗がん剤シスプラチンは、臨床で使用する際、副作用で腎障害を引き起こすことがしばしば問題となります。そこで、FAERSのデータを解析し、シスプラチン誘発腎障害への予防効果のある薬剤を4種類選出し、カルテ情報などからその有効性を検討しました。さらに、マウスを用いた臨床研究で、予防薬の効果と、それが抗がん剤の効果を阻害することがないかを確認しました。
このように、DRの探索は、闇雲に行うのではなく、データベースから候補をピックアップして基礎研究でメカニズムを探り、実臨床で効果の有無を確認するというプロセスを踏みます。この中で、Amanogawaを活用すれば候補薬剤の探索をより効果的・効率的に行えると考え、導入に至りました。
━━━ 従来の情報検索方法と比較して、Amanogawaの長所は何ですか。
濱野:人が検索を行う場合、どうしても検索者の知見・経験などから様々なバイアスが入ります。また、論文検索では主にPubMed*3を利用していますが、システムの仕様上、キーワード検索の結果を1つずつクリックし、アブストラクトを確認しなければ、それが自分の必要としている論文かがわかりません。条件を指定した絞り込みも、年代や掲載ジャーナル程度でしか行えず、関係のない論文も多く表示されます。そのため、検索結果を片っ端から30~40本開いてみて、その中に使えるものが1、2本見つかる、という状況でした。
この点Amanogawaは、AIによる客観的な検索結果が得られ、さらにキーワードだけでなく論文の内容に基づいて絞り込みを行うため、求める情報が的確に検出されます。フィルター機能が優れており、従来の検索では識別できなかったヒト・動物のどちらの研究についての論文かがわかるのも「痒い所に手が届く」機能です。導入により、論文検索の手間は大幅に解消されたと感じています。
━━━ 具体的に、研究のどのような場面で使用されていますか。
濱野: 動物モデル*4を作る際、特に研究の立ち上げ時に過去の事例におけるモデルを探す際には、かなり利用しています。モデル探索のように調べたい情報が明確な場合は、従来は丸1日かかっていた作業が1時間程度で行えるようになりました。
また、単語だけでなく文章でも検索できるので、自分が投稿を考えている論文について、アブストラクトを検索にかけて既報がないかを確認しています。さらに、自分の研究や、他の研究者との議論の中で「この部分についての文献がほしい」となった際に、該当するものを探すこともあります。
■ 特に便利なのは「フィルター」「動物・ヒトの区別」「センテンス検索」
━━━ 他の研究者の方々にAmanogawaを紹介する際、“お勧めポイント”を3つ挙げるとしたら何ですか。
石澤: 1番はフィルター機能。2つ目は動物・ヒトの論文が区別できる点です。
濱野: その2つに加え、センテンスで検索できるため、幅広い応用的な検索ができることも大きな魅力です。論文作成時にはかなりの威力を発揮すると感じています。
━━━ Amanogawaについて、追加されるとより有用性が高まると思う機能があればお教えください。
濱野: Amanogawaの検索結果を、遺伝子データベースなど他のデータベースに落とし込んで相互の情報を確認できると、より情報検索の精度が上がると考えられます。この点から、FRONTEOの創薬支援AI「Cascade Eye」にも興味を持っています。例えば、Cascade Eyeで解析された遺伝子の情報をLINCS*5などの外部公共データベースから取得し、さらにAmanogawaで、その遺伝子発現*6に関する論文や内容の傾向などがわかるととても嬉しいです。
また、先述のFAERS などでDRの候補薬剤を検索すると、安全性や副作用などの面から実臨床での使用が適当ではない薬剤も候補として提示されます。これらは、たとえ基礎研究で良い結果が得られたとしても、臨床を見据えると使用しにくいこともあります。候補薬剤に紐付く形で、これまでの副作用や有害事象報告などの安全性情報を容易に確認できる機能があるとより便利だと思います。
教育の場で学生などが使用する場合は、インパクトファクター*7やCiteScore*8でフィルターできるとよいかもしれません。
━━━ 最後に、これからAIの導入を検討している研究者へのアドバイスをお願いします。
石澤: 研究者は、これまでに自分が接した情報や事象、経験した結果に基づいて研究を行うのが一般的です。AIの活用により、自分では、または人では気付けない、エビデンスに基づいた客観的な情報が提示され、新たな発見のきっかけになる可能性があります。その実情がより広く知られるようになれば、もっとAIの活用が進むと思います。